ようこそ人形呉服の世界へ
はじめまして。人形呉服・志津の渡辺志津子と申します。
そもそも今から40年ほど前。当時お仕立て屋をしていた私の母(とよ子)の脇で見よう見真似をしていたのが、この世界に入るきっかけでしたが、当時は裁縫が好きだと言うより、むしろ仕事として緊張しながら一針一針進めていたのを覚えております。
もちろん今でも演歌歌手のステージ衣裳や結婚式の御衣裳など、まだまだ勉強を繰り返しながらこの道を歩んでいる身ですが。
さて数年前、東京在住で漫画家の息子から突然「リカちゃん人形の着物を欲しがっている人がいるから、何点か作ってくれないか」と電話がきました。
『そんな物好きな人がいるのかしら…』正直言ってその時はそう思いました。
まだ孫が生まれてすぐでしたから、人形らしい人形はありません。近所のオモチャ屋さんからリカちゃんやジェニーちゃんを買ってきて、型をとり、縫いはじめました。
でも相手が人形だけに、生地の柄が大きい・体型が日本人ばなれしすぎて着物が合わない…試行錯誤の末、やっと仕上がったのは一週間後も後のことです。もちろん初の人形呉服ですし、何度もやり直した末に出来上がったものですから、正直言って完璧とは言いがたい作品でした。本当にこれでいいのかしら、と不安にもなりました。
ですが、それを裸のまま一週間も待っていたリカちゃんに着せると、なんとまァ、可愛いではありませんか!
それからと言うもの、その作品を改良し、二点・三点…とたて続けに製作。取りあえず東京に送るものが揃った頃には、もうすっかり人形呉服にはまってしまっていました。
今では週に2着位のペースで製作し、大体百着位は作ったと思います。
出来上がった作品は原則的に息子を通じて販売したり、オーダーをとっても
らったりしていますが、この人形呉服に関しては、仕事と言う感覚はなく、自分の集大成のつもりで製作しています。
例えば、人間の呉服ではいままで作ったことのない巫女さんの衣裳ですとか、今回初挑戦したお雛様や作業衣など、時には図書館やオモチャ屋さんに通いつめて研究し、作り上げたものさえあります。
そういう点では、一点一点が私のかけらであると感じます。
最近では「着物を洋服にリフォームして、そのあまり布で人形呉服を」と云う方が増えました。今ではあまりお着物を頻繁にお召しになる方も少なくなりましたし、そもそもそのような機会自体減っているようです。もう40年も着物と付き合っている私でさえ、お呼ばれではついお洋服を着てしまいます。ただ楽だという理由で。
そのような者には言う資格がないのかもしれませんが、この着物という一つの文化を絶やしてはいけないと思います。幸い嫁がよく着物を着る人なので、月に何度かは着物屋に足を運んだりしますが、でもきっとこのままいけば、着物は“昔の民族衣裳”ということになってしまうことでしょう。
着物の良さは、数限り無くあります。しかしそれを伝えるべき手段はもうあまりありません。
私は、この人形呉服という一つの形で、孫や、その子供たちにも着物のすばらしさを伝えていけたらと思っております。
人形呉服・志津 渡辺志津子
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